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神面の人々> ジャズサックスプレイヤー 田部 俊彦

 「毒をもって毒を制す」という言葉があ る。ジャズの世界で生きていくということ は、この言葉が的を得ている。 毒の強いアーティストを乗り越えるには、 それ以上に、強力な毒を発生させる心身を 必要とする。生まれ持った毒気を増殖させ、 変質させ自分ならではの毒を宿していく。 鳥肌の立つ音に巡り会えた時、聞き手の感 性も黒色から青く、また赤く蘇生されて、 生きる心地が甦ってくる。  ジャズの魅力の捉え方は様々である。こ れはそのひとつにすぎない。講釈はさまざ まだ。

世界に通用する即興ジャズが演れる男

田部俊彦

  彼に対する期待の声は、駆け出しの頃か ら強く、そして今もなお贈り続けられてい る。本人は沈黙を保っているが、言わせて もらうなら、「田部はスゴい奴になった!」。 年齢を重ねても青年らしい純粋な情熱、負 けん気は健在で、素人の意見にも真剣に耳 を傾ける。その聞き入る顔つきは昔と全く 変わってない。  北九州大学でロック、ジャズ、ファンク、 ブルースの洗礼を受けた。大学院に行くこ とを卒業寸前に断念する。キャバレーのバ ンドボーイとしてプロ稼業を始動させた。 六十年代後半は東大生がゲバ棒をふるって、 革命運動を試みた。社会を日本を、そして 自分を真剣に問い質した。  個性の時代に突入し、真剣にギターを抱 えて主張していく若者が街にあふれたが、 多くの者はやがて髪を切り、生活を始めた。 しかし選ばれた者は、その後も活動を続け ている。彼もその一人。

田部俊彦

 田部は北九州の小倉でジャズが演れる状 況作りにこだわった。異論者もいたが、今 振り返ると、それが彼自身の文化論であり、 「小倉らしいジャズのフレーズが、誕生し た」、と今は語る。  アドリヴは感性と音楽理論の確たる基本 がからみ合い、人の心を揺さぶる音が出せ る。彼の即興ジャズが素晴らしいのは、音 楽理論と感性で吹き出す芸術の極致、エロ スの音を出す。 北九州ではスタンダード・ナンバーを演る 田部を評価して物申す人が多いが、彼の真 骨頂は即興ジャズだった。ダンサーの若林 美保とのコラボでは、クラシックとジャズ サックスのクロスプレイを聴かせてくれた。 田部俊彦。すでにマイ・ワールドを築いて いた。極まる毒気に、快感!

田部俊彦

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