さまざまなストレス、汚染された環境、食生活の乱れ…。物質には恵まれていても、決して暮ら しやすい世の中ではない。スピリチュアルな安らぎが求められ、まやかしの占いがビジネスになってい る。現代人の心には不安が満ち、カルトにより救われている者すらいる。さまざまな癒しが療法として 現れる。日本は過去、独自の文化や民俗学に見る習しが心のよりどころとなっていた国で、これほどま でに半病人や健康主義者があふれた過去を歴史で見ることないといわれる(戦時中、戦後の悲惨さはこ こでは触れない)。 高度経済成長期に家族の崩壊が始まり、日本人が新しきものを全て良しとて、培われたものを置き忘れ てきた。その結果、現代人の病が発生、感染した。人が仂く場で己に尊厳を見出せたのは、かなり昔の ことで。今やフリーターと称するは40代が多くなってきた。売れれば良しの指針は、仕事の現場か ら、人の努力や成果の喜びを奪った。物を懸命に作ることで得ることのできるアイデンティティを社会 が人が失ったことにより、仕事に創意工夫が求められず、喜びを感じない職場が生まれた。当然、そこ での人間関係も希薄になる。転職をしてもしても得られない己の居場所。パソコンに心を許し、人と話 をすることさえうっとおしく、友達、家族以上にパソコンを大切にする。こんな人間が増えてくれば、 自分と他人の区別さえつかなくなるのかもしれない。
ここはとても暖かい気で満ちている。知る人ぞ知る銘品、「つるが豆腐工房」の豆腐が作られている
アトリエと言える。父と息子がまるで友達のように、そして兄弟、しかし親子で競い合い、向かい合
い、協力しながら働いている。父は2代目、息子が3代目。2代目は息子を、3代目は父を意識しな
がら豆腐を作り上げていく 。失われた現在の世の中の大切なものが息づいている。だからここの豆腐
は美味しい。ここで作られる豆腐の種類と量の多さは、その味を知った人に絶大なる支持を得ている
ことを物語る。水が良し、大豆が良し、仕事、技良し、気配り、仕事 ( 豆腐作り ) に必要なものが
十二分に満たされている。
直接豆腐を買い求める客も多く、信頼が豆腐の味を支える柱ともなる。ここには世間で騒がれている
ような空気は存在しない。豆腐とは何ぞやを知った2人が仕事を修行のように捉えて、作っているか
らだ。豆腐から人生を教えられることがあるに違いない。
職場とは、そこに権力や不安感が存在して
はならないもの だ。ましていじめなんてとんでもない。人間が人間らしく仕事の出来ない世の中ほど
辛いものはない。
3代目は2代目の背中を見て成長した。客あっての商い。客をなめてかかる企業は、
爪のアカでも煎じて飲むがいい。愛情を込めれば食物は美味しくなる。これを知らない飲食店がはび
こる時代を、賢い消費者は気付いている 。客をなめてはいけない、仕事をなめてはいけない。
親子
で働く姿は絵にも写真にもなる。